サステナブル建築探訪 自然回帰するアーキテクチャ
2016/11/11
建築家、フリーデンスライヒ フンデルトヴァッサー。 持続可能な社会の夢を描いた建築家たち…… その想いは美しい建造物として具現化され、僕らの花鳥風月という心を魅了する。
人と自然の調和を願った ウィーンの建築家のヒストリー
フリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサーは、1928年ウィーン生まれの画家だ。幼い頃、「森で摘んだ花の色をきれいなまま残したい」と絵を描き始めた少年は、第二次世界大戦後、画家を志して旅に出た。北アフリカの大地で目にした赤土の家に、自然とともにある生への憧憬をかき立てられた彼はその後、建物と水と木を主題に多くの作品を描く。「自然の中に唯一存在しないものが直線である。社会や文化が直線に基づいているとすれば、やがてすべては崩壊するだろう」という言葉に象徴される世界観はある日、建築へと昇華する。人と植物の共生について熱心に語る彼をテレビで見た当時のウィーン市長が、市営住宅のデザインを依頼したのだ。こうして、直線がなく水と緑と調和したユニークな集合住宅がウィーンの街中に顕現。以来、多くの直線を持たない建築デザインを手がけた。その作品群は、2000年に没した今もなお、多くの人に自然との調和を訴えかけている。
“自然の中に唯一存在しないものが直線である”
①フンデルトヴァッサー・ハウス (オーストリア/ウィーン)
屋根やベランダに緑を植えて建物を覆い、都市における自然共生を実現。その自由な発想は、建築家ペーター・ペリカンの協力を得てかたちになった。今も市営住宅として活用され、ピロティに据えられた噴水は住む人々の憩いの場となっている。1985年竣工。
②ヴァルトシュピラーレ(ドイツ/ダルムシュタット)
ドイツのダルムシュタットにある12階建て全105戸の集合住宅。「森の渦巻き」を意味する「ヴァルトシュピラーレ」の名の通り、渦巻き状に徐々にフロアが増えていく。屋根は緑に覆われ、中庭には池。建物と木と水を主題にした彼自身の絵画から抜け出てきたようだ。1000以上ある窓は、ひとつとして同じ形のものはない。2000年竣工。
③舞州スラッジセンター
(日本/大阪)
2004年に完成した汚泥処理・再利用施設。フンデルトヴァッサーは、日本とゆかりの深い芸術家で、1960年代には日本で木版画を制作したほか、フンデルト(100の意味)ヴァッサー(水の意味)を「百水」と漢字にしてサインに使っていた。
Text: AYA ASAKURA
『SOLAR JOURNAL』 vol.15より転載