食・農活

海を愛する「フィッシャーマン」たちの挑戦

海に生きる人々の
「新3K」が旨い魚を生む

漁業と言えば、後継者不足に悩まされ、3K産業(汚い・危険・きつい)の一つと思われがちだ。2015年の全漁業就業者数は約17万人、20年ほど前の32万人から半減しているのが現状だ。そんな漁業の体質を変え、水産業を「カッコよくて・稼げて・革新的な」『新3K』にし、次世代へ続く未来の水産業を作り上げようとしている団体がいる。「一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン」だ。平成26年度、宮城の若手漁師が集まり設立した。銀鮭漁師の鈴木さんもメンバーの一員である。

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量販店での流通がメインとなった今、出口となる店舗での販売価格が先に決まっており、いくらこだわりを持って育てた魚であっても、正当な評価をされにくいことなどが問題点となっている。また、漁師の仕事が市場や問屋に卸すに留まることが多くなり、その後の流通がわかりにくい。そのため、日々見えない価格の下落にさらされ、漁師自身が漁業の魅力を感じにくなっていることが、後継者不足の原因にもなっているのではないかという。

ここでは、漁場から直送した漁師自慢の魚たちが並ぶ。他にはない食材の数々が、鮮度の高いまま、お客さまのテーブルへ運ばれる。

「自分の魚がどんな風に食べてもらえているのか、ダイレクトに分かるので励みになります。お客さまに喜んでもらえたら嬉しいですし、ご意見をいただければ、次はもっと美味しいものを届けたいと意欲が湧きます」。

漁師自身が、自分の仕事に誇りを持ち、楽しさや喜びを感じる仕組みも重要なことなのだ。

全てを見せて
全てを魅せる

また、食生活の欧米化により、家庭における魚の購入量が減少し、子供たちの魚離れが進行しているのも、その原因の一つだろう。しかし、鈴木さんはこう言う。

「漁師自らが、お客さまに魚本来の美味しさや、楽しみかた、魅力をきちんと伝えていけば、もっと食べてもらえると思うんですよ」。

確かに、この店で提供されるメニューは、鮮度を生かした一品から、一風変わった調理法まで様々な工夫がされており、生ものが苦手な人でも十分に楽しめそうだ。

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銀鮭のソテーは身がふっくらとして濃厚な味わい。

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ホヤが入ったサラダは臭みもなく絶品。

普段、スーパーで買う魚が、どのように育てられたかなど、考える機会はそれほど多くはないだろう。しかし、ここに並ぶ魚たちには、全てストーリーがある。今まで見えてこなかった過程が、全て目の前に広がる。手を伸ばせば届きそうなほどの距離にある調理場は、料理人も緊張することだろう。それでも大きく開放的なオープンキッチンには、生産から食卓までを隠すことなく一貫して『見せる』という、魚谷さんの強い決意が込められていた。

家庭では見る機会の少ない大きな魚に、子供たちも興味津々だ。飲食店として料理を提供するだけでなく、第一次産業の担い手、料理人の担い手を育て、次世代へ繋ぐ場となっているようだ。

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カウンターから調理場を覗く子供の姿。見たことのない魚に興味津々。

また、今まで個々で活動していた漁師たちが共に活動することで、互いに大きな刺激になっていると鈴木さんは言う。

「自分だけが良くなっても仕方ないんです。地域も浜も越え、みんなで連携してやっていけたら面白いですね。宮城にかかわらず、全国の漁業が盛り上がって、日本の海産物を国内だけでなく、海外に向けても発信していきたいです。だから団体名もフィッシャーマン・『ジャパン』なんですよ」。

宮城から始まった漁師たちのひたむきな想いは、重なり合い大きなうねりとなって、世界へ届く日もそう遠くはないだろう。


宮城漁師酒場 魚谷屋 公式Facebook

フィッシャーマン・ジャパン 公式サイト


Text:Tomoko Kotaka
Photo:Yukiko Kotaka&Tomoko Kotaka

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