お金では買えない梅干し? 宮崎県の希少な鶯宿梅
2017/01/06
お金では買うことが出来ないというコンセプトを持った、面白いオンラインセレクトショップ「WITHOUT MONEY SALE」。お金でモノが当たり前に買うことができる現代だからこそ、改めて、「そもそも、お金ってなに?」ということを考えてみるきっかけとなるだろう。
お金では売らないオンラインセレクトショップ「WITHOUT MONEY SALE」。このサイトで扱う商品はお金で買うことができない。「愛」や「知恵」、「時間」で購入するというサイトだ。
第1弾は「お金で買えない梅干し」(現在は完売)。9年ものの鶯宿梅(おうしゅうばい)の梅干しだ。鶯宿梅は1200年の伝統を誇る古来品種の梅。平安時代に詠まれた「鶯宿梅」という有名な歌の題材になっている、鶯宿梅の3年ものの梅干しはほかの通販サイトで買うことができるが、9年間樽の中でじっくり熟成させている梅干しは稀少で普通は購入することはできない。
この梅干しを、購入する方法は3種類。「愛で買う」(梅干しへの愛を原稿用紙3枚)、「知恵で買う」(梅干しを盛り上げるアイデア3つ)、「時間で買う」(梅干しを深く理解する時間として、宮崎県徳重紅梅園の生産者徳重文子さんの梅への想いを聴き、梅干しづくりを学ぶ)というもの。
このサイトを企画したのは並河進さん。電通のコピーライターで、数々のソーシャルデザインプロジェクトをたちあげている。ワールドシフトネットワークの戦略ボードメンバーのひとりでもある。
並河さんは「ほとんどのモノがお金で価値を測られる時代。しかし本当は、モノにはお金では測りきれない、お金を超える価値があるはず」という。
「いまはお金とモノだけが強調されている。お金とモノ以外のサービスを見える化することで社会は豊かになるのでは」と考えた。考えてみると本来、空気も水も土地もお金で買えないものだった。今はすべて「取引」されるものとなった。
CO2排出権は取引されているが、そのうち呼吸するための酸素も売り買いされるのではと思うくらいだ。少なくとも花粉や汚染物質が入っていない空気を手に入れるためにマスクや空気清浄機が当たり前の社会になっている。水もまた「取引」される。土地の所有や取引の概念でさえも、北米先住民にとっては理解しがたいことだったという。「太陽がだれのものでもないように、大地もまた誰かのものではない」と先住民は考えていたのだ。
誰のものでもない、共有のものを「コモンズ」(共有地)という。山も川も森も海もすべての自然は、本来、誰のものでもない「コモンズ」(共有地)であった。地球という惑星において、資源や食糧、生態系のサービスもまた大切な「コモンズ」であった。
共有することではじめて価値がうまれる。そしてひととひとのつながりや、関係性などもまたお金で取引ができない。そこに価値があると考える社会へとシフトしているのかもしれない。自然を資本と考える「自然資本」やソーシャルキャピタルを資本と考える「社会関係資本」、ひとのつながりを資本と考える「信頼資本」など、マネー資本主義ではない、より成熟した社会の資本主義へとシフトしている。
切りたいだけ木を切って、それが所有できるとなれば、誰もが競って木を切って行く。しかしそこにあったのは木ではなく森であり、生態系であり、森と暮らす文化であったらどうだろう。共有し、守り、伝え、育むことで価値となるものであるとしたら。
「WITHOUT MONEY SALE」は「お金ではない価値」に気付かせてくれるひとつの試みなのかもしれない。9年ものの「鶯宿梅」はすでに限定数に達し、販売終了となっている。お金で買えないものを、お金以外の手段で購入するという体験も面白いが、それ以上に「そもそも、お金ってなに?」ということを考えてみることで、いろんな物が見えてくる。
谷崎テトラ
1964年生まれ。放送作家、音楽プロデユーサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&コーディネーターとして活動中。世界のエコビレッジや聖地を旅し、収録した音源で音楽作品も数多く制作している。
谷崎テトラホームページ
※「SOLAR JOURNAL vol.13」より転載