半農半X――加藤登紀子とYaeの生き方
2014/12/26
「農」にまつわる新たなライフスタイルとして注目を集める「半農半X」。土を耕すことは、自然=命と繋がること、命を繋いでいくこと……そんな生活から得られる感覚や想いを、創作活動へと昇華する加藤登紀子さん・Yaeさん親子にお話を聞いた。
「土」と向き合い、命を繋ぐ。
長い時間を生きる醍醐味を知る。
緑の山々に囲まれて、のどかな田園風景が広がる千葉県南房総鴨川市。海沿いには有数な観光名所も多い鴨川だが、「鴨川自然王国」はずっと内陸、山に分け入ったところにある。
鴨川自然王国の設立は1980年頃。加藤登紀子さんの夫である藤本敏夫さんが、田舎暮らしをする拠点として、見渡すかぎりの自然に囲まれたこの場所で王国づくりを始めた。
「私は仕事柄、東京を離れるわけにはいきませんでしたから、時々遊びに来る感じでした」。
都会に拠点を持ち、田舎にも拠点を持つ……都会と田舎を行き来する登紀子さんのライフスタイルは、そんなふうに始まったのだそう。
一方、Yaeさんにとって鴨川自然王国はどんな所だったか。
「子供の頃、春休みや夏休みに遊びに行く場所でしたね。トンボやカエルを追いかけるなど、生き物にも囲まれた場所という印象が強いですね。初めての一人旅も、目的地はココ(鴨川自然王国)でした」。
Yaeさんは現在、家族とともに鴨川自然王国に暮らし、歌手活動と同じように農業も営んでいる。
「ここで暮らすようになったのは、歌手になって4年目くらいの頃から。大人になるにつれて、次第に都会で暮らすことが多くなってきていたのですが、不思議と引き寄せられるように戻ってきましたね」。
田舎暮らしをはじめて、Yaeさんは、改めて自分のルーツが田舎にあることを感じているという。かたや、同じアーティストである登紀子さんは、東京に暮らしながらよく鴨川自然王国を訪れるというライフスタイル。でも、決して鴨川自然王国に対する想いが浅いというわけではない。登紀子さんとYaeさんは、仲良くふたりで田んぼに出かけて、農作業をすることもめずらしくはないのだ。
長い時間をかけて繋がる命を歌いたい
そんなふたりに、土とともに生きる事、土を耕しながら生きる事について聞いてみた。
「土を耕すのは、時間がかかります」と話し始める登紀子さん。
「実は私、人生って少し長すぎるんじゃないかと思っていたんです。先の事を考えなくてはならないって事が、私にはプレッシャーで。その日その日を精いっぱい楽しめれば、それでいいんじゃないかって思っていたんです」。
そんな登紀子さんが、長い時間を生きる事に醍醐味を見つけたのは、つい最近の事なのだそうだ。
「自然に触れながら、土を耕していると、知らないうちに育ってきているものってあるでしょう? 気がつかないうちに根をおろして、大きく成長していく大木みたいに。そういうものの豊かさを、自分の人生にも感じられるようになったんです」。
昔は、自分の未熟さを感じる事が辛い時や、自分の命が浅いもののように感じられる時もあったそう。
「でも今は、自分の歴史が自分を支えてくれている感覚がある。これまで起きたいろんなことが、すべて伏線になっているような……そんな感覚が確かにあるんです」。
そんな気持ちの変化は、アーティストとしての佇まいにも影響している。
「例えば、心の駆け引きを歌うラブソングもいいけれど、もっと大きな愛、長い時間をかけて繋がる命のようなものが歌いたくなりました」。登紀子さんは、そんな想いを最新のミニアルバム『愛を耕すものたちよ』で歌い上げている。