家庭菜園が世界を救う。野口勲氏が語る「最先端技術」の危うさ
2014/11/27
農業とはすなはち、 「食」 を支える営み。 ところがその 「食」 にも、 にわかには信じられないような 変化が起こっている事を、知らない人も多いのではないか。話題を集めた本 『タネが危ない』 の著者に、 「最先端技術」 の“危うさ”について聞いた。
本来の種は一粒万倍
日本はもちろん、世界中の人々が食べている野菜の多くが「雄性不稔 のF1種」という、おしべがなく子孫を作れない野菜なんです。しかも現在の日本の農業はその雄性不稔の F1種をわざわざ海外から仕入れて行っているのが現状です。
F1種とは、異なる 2 系統の種を人工的に掛け合わせて作った雑種の一代目のこと。両親の持つ対立遺伝子の優性形質だけが出てくることで、見た目が均一になる。しかも生育が早くなったり、収穫量が増えるといったメリットも大きい。出荷規格に沿った形で流通させるためには、F1種を使うしかないんですね。
ただし、そのメリットは一代目だけ。農家は毎年種苗会社から海外採種の種を買うしかないというのが現実なんです。また、多くの農家では各地域で代々受け継がれてきた昔ながらの「固定種」の栽培なんてやりたがりません。なぜなら固定種は、規格も数もそろわないし、箱にも綺麗に詰められない。要するに市場に出せないんですね。消費者も綺麗じゃない野菜、例えば、緑が濃くまっすぐのキュウリじゃなきゃ買ってくれない。
そもそも「固定種」という言葉だって、実はもとからあった言葉ではなくF1種と区別するために作られた呼び名です。昔から「一粒万倍」と言われるように、種とは一粒が 1 年後には 1 万倍、 2 年後には 1 億倍、3 年後には 1 兆倍、 4 年後には 1 京倍と増えていく……それが本来の姿なんです。
警鐘を鳴らすミツバチ
近年、西洋ミツバチが姿を消すという現象が起こっています。
ミツバチは花粉交配に使われるんですが、アメリカでは2007年に240万箱あった巣箱から 80 万箱ものミツバ チが姿を消し、農薬のせいではないかと騒がれました。現地報告によると、1960年代から 20 年に一度の 周期で姿を消しているそうです。ミツバチは女王バチが2年生きて、次の女王バチを生むサイクルですから、20 年というのは 10 世代。実はこれ、 世界中で誰も言ってないことなんですが、私は、 10 世代の間に雄性不稔の蜜が女王バチに取り込まれ続けて、10 世代目の女王バチから生殖能力のない無精子症のオスバチが生まれたことが原因じゃないかと思っているんです。次の代がないわけですから、ハチたちにとって自分たちのアイデンティティを失ってしまう。それで巣を見捨ててしまうんじゃないか、と。
ミツバチを例にとりましたが、食べ物が身体や子孫を作るのは人も同じです。 「雄性不稔」の食べ物を摂り続ける影響について、きちんとした研究をしている人がいないのが心配ですね。花は子孫を残すため、種を生むために咲きます。子孫を残せない花しか咲かせられない野菜の命とは、一体何の意味があるのでしょうか……。
家庭菜園で世界を救う
F1種全盛の昨今、固定種のタネは農家にはほとんど売れません。
買っていくのは、ほとんどが家庭菜園をやっている人たち。 「昔の野菜が食べたい」という、定年退職されたくらいの年代の方と、 「子供たちに安心・安全なものを食べさせたい」という若い世代の方たちです。しかし、種採り農家も高齢化で「来年はどうなるかわからない」というところが増えてきています。また、ほとんどの農家が「種は買うもの」という考え方に慣れてしまって「種採り」を忘れてしまっていますから、種の採り方まで袋に書いて売っているくらいです。
とにかく種を買っていくお客さんたちには、自家採種をお願いしています。「F1種の野菜の問題点がはっきりとわかった時、あなたの残した固定種の種が人類滅亡を救う!」って、私は真剣にそそのかしているんですよ(笑) 。
野口勲
1944年東京生まれ。「野口のタネ/野口種苗研究所」代表。日本各地で自然に育つ「固定種」の育成と啓蒙に注力している。元虫プロ出版部手塚治虫社長担当漫画編集者。
撮影/都築大輔 取材・文/松浦良樹
※『SOLAR JOURNAL』vol.10より転載