城南信用金庫相談役が語る、脱グローバリゼーション
2016/02/19
東日本大震災後に脱原発を目指してユニークな取り組みをしてきた城南信用金庫。「経済を首都圏一極集中型から分散型にして地域活性化するには、 再エネが一番である」と主張する、相談役の吉原毅氏が、その根底にある経済観を語る。
「社会にとって良いこと」が
経済成長につながる
私は東日本大震災を通じて、原発推進は間違いであったと痛感しました。原発即時ゼロを実現すべく、慶応義塾大学の故・加藤寛先生と一緒に城南総合研究所を立ち上げたのですが、「社会にとって良いことが経済成長に繋がる。原発再稼働は何ら経済的にメリットがない。一部の利権を得ている政、官、財、マスコミ、学会の5つのペンタゴンが利益を得ているにすぎない」と加藤先生は厳しく批判されていました。加藤先生は「公共選択論」という学問作られたのですが、その根幹は、日本の癒着問題を無くそうというものでした。そして、電力会社の構造が変わればという思いから、「日本再生最終勧告」という本を出されました。原発推進の流れは、アメリカのアル・ゴア元大統領が作った「不都合な真実」という、地球温暖化問題を扱った映画から始まったと考えております。日本が2040年に沈没するなどといった内容でしたが、これが原発ルネッサンスに繋がったのではないでしょうか。
利権を享受している人たちの
「お金と経済成長」という意識
私はアメリカのグローバリゼーションをあまり好んでおりません。戦後の経済体制は1945年から始まりましたが、1980年代からはウォールストリートを中心とした国際金融資本が、食糧や石油、エネルギーなどを投機の対象とするようになったことで、資源を巡る戦争がまた起こり始めているように思います。利権を享受している人たちは、いつでも「お金と経済成長」という意識を持っています。都市に住んでいる人間の周りには自然や資源が少なくなるため、お金がないと暮らしていけないと思いがちです。そして、そういった理由から「原発でいいじゃない」という意識が芽生えてしまっています。内部被爆の恐ろしさを知らないので、事故が起きたらその時はその時……なんていう人まで出てくる始末なのです。
「お金」ではなく「人の幸せ」
経済成長の本当の意味
経済の定義は経済理論的にいうと、もともと「お金」ではなく「人の幸せ」であると私は考えます。経済理論には、私的財と公共財というものがあり、前者はお金が絡む取引で、後者は空気、水、安心安全、国防、治安、信頼性、連帯感、モラルなどを指しています。人間はこの両方を 享受しており、お金が絡むGDP(国内総生産)は、経済のほんの一部に過ぎないといえるのです。例えば「里山資本主義」(※)のような考え方は、決して経済成長にとってマイナスではないと思います。地方の自然環境から受けるサービス、お金を使わないでいいという安心感、物の贈与による人々の連帯感などは、極めて大きな簿外収入になるからです。これからも経済成長はすべきだし、できると思います。成長は、お金で購入した再生不可能な資源エネルギーを使用することで得られるというわけではありません。お金や資源の消費だけではない経済成長の余地が、もっとたくさんあるということを、私は訴えていきたいです。
※里山にはお金に換算できない大切な価値 が眠っているという概念。マネー資本主義 の反対語として作られた。
吉原 毅氏
1955年、東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、城南信用金庫に入職。2015年、相談役として就任。信用金庫の原点回帰として、理事長の年収を支店長の平均以下である1200万円、全役員の定年60歳など異色の改革を行う。2014年4月に著書『原発ゼロで日本経済は再生する』(角川学芸出版)を発表。
取材・文/大根田康介
※『SOLAR JOURNAL』vol.13 より転載