地方・移住・旅

2050年までに電力自給率100%! 檮原町の課題は?

“外”の動向・情報に敏感でありつつも、
“内”に秘めた宝を見直す

実は、これは、時代の流れに叶っている。グローバル化に伴い世界規模での標準化が進めば進むほど、真似し難い文化的な違いの価値は高まっているからだ。国、地方、企業、人、いずれのレベルでも、ブランド力や競争力のカギを握っているのは、”積極的な内向き”だ。”外”の動向・情報に敏感でありつつも、それに振り回されることなく、”内”に秘めた宝を見直し、それを市場や社会のニーズに見合う形で解き放つことが求められている。

さらに未来に目を向け、後世にどのような文明を遺すかを考える上でも、檮原町のあり方は示唆に富んでいる。先に述べた、町もそこに住む人々も自然の一部として存在するという世界観・美意識が導くのは、持続性に優れた人の営みだ。

森林、川、植物、動物、人、生態系を成すそれぞれが、独自の個性を保ち育みつつ、まわりと絶妙な調和を図る力、全体を潤し続ける循環……こうした、自然の姿そのものの”叡智”をカギとして行われてきた、檮原町のイノベーションや町づくり。そこには、共存や持続可能性といった、今の時代の切迫した課題に応える文明の姿が垣間見える。

ただ、追い風が吹き続けているというわけでもなさそうだ。木造建造物の温もりや香りとは裏腹に、町にはどことなく空しさが漂う。高齢化率は39%、人口減少には歯止めがかかっていない。

また、町づくりを10年以上も引っ張ってきた前町長は病床にあり、町の循環モデルの強化と深化に、以前の勢いはみられない。築いてきたものを活かすことに力を注ぐべき大切な時に、立ち止まっているかのよう。どんなに素晴らしいものを生み出しても、循環が止まれば、朽ちてしまう。

「ものたらん。人がおらん」と、町で民宿を営む88才のおばあちゃん。イベントを通じて人を呼び込むなどして「やりかけたことを、やりきらないと」とこぼす。

東京から670km、人口4000人、標高1455m。檮原町は”雲の上のスマートシティ”への道を歩み出している。止みかけた風は、また吹くのか……。エネルギー、競争力、そして未来の文明といった観点からも、この町の今後に期待したい。


長野アミ Amie Nagano, PhD
英メディア 「ザ・エコノミスト」グループでコントリビューティング・エディター。震災をきっかけに、現代文明のゆくへに対する危機感を強め、文明にパラダイム・シフトを促すブティック・ラボ「八百万ING(やおよろじんぐ)」を立ち上げる。ロンドン大学(LSE)を経て、ダラム大学大学院より博士号(社会科学・福祉)を取得。
http://yaoyorozu-ing.jp/


文/八百万ING
※SOLAR JOURNAL vol.9より転載

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