もう始まっている、世界を変える新しい「紙」の話
2016/06/20
貧困や環境問題、野生生物の減少……多くの問題を解決するのは、世界125ヶ国で栽培されているバナナなのだ、というお話。
紙を選ぶことで、人と自然を守る
世界には、家族を養うために野生動物の密猟や違法伐採に手を染める人々がいる。貧困と戦う人びとにとって、絶滅の危機にある野生動物の減少や、生物多様性が損なわれる環境問題は二の次。禁止する法律をつくっても、その正義は通用しないのだ。一方、一部の国では、熱帯雨林の木を原料とする紙が大量に使われている。その消費量は、全世界で1日100万t以上。日本人は1人1年200 kgの紙を使っており、森林破壊と電力消費による温室効果ガス排出の一因になっている。
バナナペーパー・ビジネスは、地球規模のこれらの問題を一度に解決できて、そのプロセスに誰もが参加できるビジネスモデル。ザンビアでは、バナナを繊維に加工する仕事が新しい働き口として機能し、貧困から脱出した人が現れている。一方の日本では、消費しても環境負荷が少なく、貧困の解決を助けることができる選択肢として、バナナペーパーを選ぶ企業が登場している。
ゾウは40年間で半数、キリンは15年間で40%、ライオンは70年間で90%が姿を消した。密漁を止めるには、貧困の撲滅と先進国での市場をなくすこと(絶滅危惧種の商品を買わないこと)が不可欠だ。
ビジネス用途で選ばれ、売り上げは順調
事業を運営する株式会社ワンプラネット・カフェ取締役のペオ・エクベリ氏は、「取引先の企業から『エコな紙はたくさんあるけれど、貧困問題にも切り込んでホリスティックに(包括的に)社会貢献をしている紙はなかった』という評価をいただいております。『使う紙を選ぶ』という身近なアクションで、課題解決のストーリーに参加できる。紙を売っているというよりも、サスティナビリティを売っている、という意識です」と語る。
「課題解決」という付加価値により、同じグレードの一般的な紙と比べて10倍という高価格にもかかわらず、大手自動車メーカーや東京藝術大学、化粧品メーカーなどに採用され売り上げは順調。これはもちろん、紙自体の品質の高さがあってのことだ。
名刺や商品パッケージなどの高級紙市場を想定し、越前和紙の技術でなめらかでしっとりとした質感を実現。わずかに残ったバナナの繊維が砂子のような趣をそえている。2013年1月には、紙製品メーカー、印刷会社13社が提携したワンプラネット・ペーパー協議会が発足し、生産・流通の輪も広がっている。中には、「バナナペーパーで社会貢献をしている」という理由で応募者が集まり、新卒採用に成功した企業もある。
バナナペーパーは「One Planet Paper」の商標で流通。20%以上のバナナ繊維と古紙が原料だ。
バナナ農家は収入アップ。146人の子どもが学校へ
現地の工場では今、25人の〝元〞貧困層の人々がバナナの茎から繊維を取っている。その仕事がもたらす収入で、マラリアを予防する蚊帳を買ったり、電気のない家にソーラーランプをつけることができたという。彼らの子供たち146人は、働かずに学校へ行けるようになったのだ。
バナナの茎は、10箇所の有機農法のバナナ農家から運ばれてくる。農家にとっては、バナナを収穫するたびに出る廃棄物を買ってもらえるありがたい存在である。「工場を運営するにあたり、フェアトレードの12のルールを遵守しています。バナナを植えるために熱帯雨林を伐採していないかどうか、関わっている人が密猟をしていないかなど。ある問題の解決策が、別の問題の原因にならないようにすることが大切です」とエクベリ氏。
エクベリ氏のもとには今、ミャンマーやウガンダなど20もの国から問い合わせが寄せられている。「計算上は、全世界の紙の需要をバナナの茎だけでまかなえます。紙はバナナからできているのが当たり前の世界にしたい」というビジョンは、着実に現実へと近づいている。
バナナペーパー商品の情報は下記サイトへ。
http://oneplanetcafe.com
text :Aya Asakura