魚と一緒に栽培!? 海外で広がるアクアポニックス
2016/08/17
日本にて「アクアポニックス」を広める活動をしている江里祥和氏。今回はアクアポニックスとは何かを語っていただいた。
アクアポニックスって?
「アクアポニックス」という新しい農業の形がある。
魚を養殖する水産養殖(アクアカルチャー)と水耕栽培(ハイドロポニックス)を掛け合わせた農法で、この言葉は1970年頃に誕生した。魚と植物を同時に育てる仕組みで、魚の排泄物から発生したアンモニアが微生物によって亜硝酸塩、硝酸塩へと分解、植物はこれを栄養として吸収して育ち、きれいになった水が再び魚の水槽へと戻る循環型農業だ。
設置場所や規模が自由自在、従来の土を使う農業と比べて90%の節水が可能、水耕栽培の約2・6倍の生産性(※)、魚を同時に養殖できるなどの特長があり、1980年代にはアメリカで商業システムが登場。今ではオーストラリアや中東の砂漠地帯などの水が貴重な地域や、貧困対策としてガザ地区(パレスチナ)などで新しい食料生産の形として導入されている。アメリカでは完全閉鎖型の大規模農場で生産された野菜やハーブが、大手スーパーで販売されるケースも出てきている。
家庭用商品も登場
一方で、この6〜7年の間で家庭用商品の登場が続いている。キッチンに置ける小型タイプから、ベランダに置ける中型サイズまで、アクアポニックスを楽しむ人々がアメリカやヨーロッパで特に増えてきている。農薬は魚に影響がでるため使えず、必然的にオーガニック栽培に。水やり、肥料、土作りは不要、室内に置けば虫もつきにくい。世話についても、毎日の魚のエサやりが中心となるため、負担は少ない。さらに、腰を曲げずに作業ができるため、子供はもちろん、高齢者や車椅子の方でも楽しめる。
当たり前の事実を生活に
特に都会で暮らしていると、歩いていける距離に自然がない場合が多い。自然から離れた場所で毎日を過ごしていると、私たちの暮らしがどれだけ他の生き物に支えられているのか、そんな意識を強く保つことは簡単ではない。そうした状況で、まるで自然界の循環を切り取ったようなアクアポニックスの仕組みが、人々の暮らしと自然との距離を縮める農業として注目されている。
まだまだ日本での注目度は高くないが、パソコンやスマートフォンの画面を通して見る世界の比率が多くなってきたこの現代の暮らしに、はっとした気づきを届けることができるのではないか。自分自身で生態系をゼロから作り上げ、日々その成長を観察し、収穫して味わう。そんな「食べられる生態系」でもあるアクアポニックスの発展は、まだまだ始まったばかりだ。
家庭でアクアポニックスを楽しめる商品「アクアスプラウト ~さかな畑~」。金魚などの魚を飼いながら野菜やハーブを育て、収穫することができる。
※ 1 反の土地で約11tの野菜と約5tの魚が生産可能。書籍『Just Food』より
えりよしかず
1987年生まれ。2012年より世界各国の農地を1年間巡り、ヨルダンでアクアポニックスに出会う。2014年に株式会社おうち菜園を共同創業。商品や書籍の販売、学校や専門情報サイト、コミュニティの運営を行い、広報として日本にアクアポニックスを広める活動をしている。
<アクアポニックス公式サイト>aquaponics.co.jp