食・農活

脱サラして神社で農業を始めた男、田舎暮らしの魅力

都会での生活から一転、田舎に移住して農業を始める。難しそうでも、一歩踏み出してみたら意外とうまくいったりするんじゃない?人や地域、自然との強いつながりを感じながら、農的暮らしにどっぷりと浸かってみよう。

神戸のサラリーマンが脱サラ、
移住の末たどり着いたのは……
神社で田んぼ!?

国のはじまり、仏教伝来、相撲・そうめん・日本芸能などの発祥の地ともいわれる奈良県桜井市。そんな桜井市の等彌神社(とみじんじゃ)の境内で田んぼ作りが始まっている。中心となっているのは就農3年目の若者や移住者、そして地元の有志たちだ。

神饌田(しんせんでん)とは神社などで供えるお米を作るための田んぼのこと。お米の他にも酒・魚や塩など海川山野の産物が神社などの本殿や社に飾ってあるのを見たことがある人も多いに違いない。
そんな神饌田という日本の伝統的な農に関わることになったのは就農3年目、脱サラして奈良県桜井市に住むことになった難波良寛さんだ。

「金持ちになるのが夢」だったという難波さんのサラリーマン時代の話を聞くと、宝石商に不動産販売と地道な農業とはかけ離れたイメージしか出てこない。しかも、就農したばかりの時は金髪にタンクトップ姿になり、周りを唖然とさせたというからなおさらだ。

「こんな姿のやつでも真剣に農業に向き合ってる、というインパクトが欲しかった。農業はキツイ・汚い・毛深い?みたいな3Kのイメージを払拭したかったんです」と格好良さを常に意識して農業に取り組んでいるという。仕事を辞め、悶々とする中で家を飛び出した時の所持金は3000円、とにかく何かを変えたいという想いだけ。なんとかこれまでのツテをたどり紹介されたのは、時給800円の農作業のアルバイト。その時手元には80円しか残っていなかったという。

バイト初日、おにぎり一つ買えず、空腹でフラフラしながら無農薬のサツマイモ畑での草取り作業。昼ごはんで出された蒸しただけの野菜の自然の甘さや味噌汁の温かさに、恥ずかしいくらいに自然に涙がこぼれていたという難波さん。その日を生きしのぐためにせざるを得なかったはずの農業の魅力を実感した瞬間だった。

そこから1年間は「農だけでなく人生そのものも含めて大きな勉強になる期間」だったと振りかえる。そこで感じたことは「教えてくれた師匠に恩を返したい」ということだった。農家は高齢で困っている人も多い。師匠も高齢でもあり「こだわって作っても認めてもらえない」と嘆いていた。そこで思いついたのが丹精込めて育てた野菜を軽トラで販売することだった。

販売は大好評で師匠にも「希望が持てた」と感謝された。師匠の元を離れ独立するときにも地元の人から畑を見つけてもらい、今でもそのまま住み続けているシェアハウスを紹介された。軽トラやトラクターなど必要と思われるものも地元の人たちの好意でそろっていく。

神社で畑をやらないかと声をかけてもらい、ふたつ返事で引き受けることになった。
「自分の意思というよりも不思議の連鎖が続き、桜井市という大和の地に根を張る形になった。答えあわせ、後付けですが3年目になって見えてきたものがあります。それは日々のことをしっかりとやっていくこと。結果として良い環境を作っていくことができる。僕の役割は目の前のことを1日1日しっかりとやっていくこと」。

サラリーマン時代と比べると収入は大きく減っていても、満足度は今の方が高いという難波さん。
「農業で飯が食えるかってよく聞かれるんですが〝食えるよ〞と自信を持って答えています。飯を食うために働くのではなく、飯そのものを作ってる(笑)。旬のものだけで十分です。山に行けば山菜やキノコも豊富です。農業は生きることにつながっていく 。自然暮らしや農的暮らしを求めながら、田舎でやっている都会の仕事では仕方がないと思うんです。大和の国ですから大和魂、生きる力を強くしていければ。大地を守ること、農をやることがかっこいいとなっていけば素晴らしいですね」。

「農は神と人間の共同作業 」であり「神だけで作物を作る事はできないし、人間だけで作物を作る事もできない」という難波さん。地域や自然、そして人との繋がりを大切にしながら覚悟を持って大和の地に根を張る力強さを感じた。

プロフィール

難波良寛さん

2013年、脱サラの末にたどり着いた奈良県・桜井市で就農。師匠から農業を教わり、独立して2年目に現在の等彌神社で神饌田づくりをスタートした。好きな言葉は「大和魂」。夢は、農業や田舎暮らしをしたい人たちが集えるような、受け皿となる“村”を作ることだそう。


text: Yoshiki Matuura

EARTH JOURNAL vol.04(2017年春号)より転載

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