食・農活

かつて都市にいた若者達が、農業を選ぶ理由

一般社団法人エディブル・スクールヤード・ジャパン代表の堀口博子さんによる、「食と人のより良い関わり方」を見つけるための連載コラム。第1回は、北カリフォルニアでの出会いを振り返る。

『地球の庭を耕すと(原題:Why We Garden)』という本(※1)を、ずっと以前に読んだことがある。その時は自分が子どもたちと一緒に畑を耕すことになるとは思ってもみなかった。ただ、土への漠然とした憧れがあり、身に付けたいという感覚を求めていただけだった。

やがて21世紀は、「共生」への希望を打ち砕く惨事で幕を開けた。人と人は信じ、尊敬し、助け合う。諍いは、祭りの後の陶酔とともに吹き飛ぶはずだったが、現実は違ったのだ。

そんな頃だった。アメリカのサウス・ウエストの旅で知った〝スリー・シスターズ〞のことが無性に思い出された。それは、アメリカ先住民が伝統的に行っているコンパニオンプランツ、共生農業の事で、トウモロコシとカボチャとマメを一緒に育てる。トウモロコシは高く伸び、そこにマメが土に栄養を与えながらツルを這わせ、地面はカボチャの葉が覆い乾燥を防ぐ。3姉妹が互いの性質を活かしながら厳しい環境を生き抜き、収穫の秋には食卓のご馳走となって並ぶのだ。スリー・シスターズ、何て素敵な呼び名なんだろう。それから数年後、私は北カリフォルニアを訪ねた。

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Put your hands in the dirt!Grow your own food!
「泥に手を突っ込め! 自分たちの食べ物を育てよう!」。

J・ケルアック以来、30年ぶりにカリフォルニアの文化に刺激された。都市であれ田舎であれ、行く先々でそれらのメッセージに出くわした。

「以前はシリコンバレーで働いていたけど、辞めたよ。給料はよかったが30過ぎてやる仕事じゃない。今は農園で働きながら有機農業を勉強している」。

「NASAの宇宙工学技師だった。バイオダイナミック農法に心酔し、今ではフィグとローズマリーの生産者さ。『シェ・パニース』(※2)に卸してるよ。アリスは、僕のフィグとローズマリーに首ったけなんだ」。

サンフランシスコを中心とするベイエリアと呼ばれる地域の農家の多くがオーガニック(有機農法)、あるいはそれを目指している。それも、かつて都市の最先端で働いた若者が農業を選ぶ。

何が起きているの? なぜこの土地の農業は、こんなに自由でカラフルで魅力的なの?

毎週火曜と木曜にバークレー市内で開かれるファーマーズマーケットの店を冷やかしながら、私はその理由について考えた。

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そして、馴染みになった農家を訪ねることも度々だった。ソノマ、ボリーナス、ケイペイ、遠くはサンタクルーズ、サンタバーバラまで。どこへ行っても、地域に密着した最高の農産物を置く有機食料品店があり、店先に並ぶのはその日の朝に採れた野菜や果物、しぼりたてのアーモンドバター、草を食んだ牛から採乳したノンホモ牛乳(※3)も、決して珍しいものではなかった。そして、それらは手頃な値段で手に入った。

やがて、1つのぼんやりとしたビジョンが目の前に開けた。

「この地の人々は、食で世界を変えようとしている、それももっとも平和で楽しいやり方で」。

私にとって、その「やり方」を教えてくれたのが、〝エディブル・スクールヤード〞だった。

(続く)


※1 『地球の庭を耕すと(原題:Why We Garden)』という本……この連載を始めるにあたって、ジム・ノルマン著『地球の庭を耕すとー植物を話す12か月』(工作舎刊 星川淳訳)にインスパイアされ冒頭に触れさせていただいた。心からの尊敬を込めて。

※2 『シェ・パニース』……“スローフードの母”と言われるアリス・ウォータースが営む伝説的なレストラン。

※3 ノンホモ牛乳……均質化(ホモジナイズ)されていない牛乳のこと。市販の牛乳の多くは、消化吸収をよくすること、乳脂肪の浮上防止と品質保持の目的で、乳脂肪中の脂肪球を細かく砕き、 安定した状態にするホモジナイズが施されている。


PROFILE
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堀口博子/一般社団法人エディブル・スクールヤード・ジャパン代表。カリフォルニア州バークレーに生まれた生命のつながりをガーデンとキッチンの授業を通じて学ぶ体験型教育手法「エディブル・スクールヤード」の日本最初の実践研究を2014年より東京都多摩市立愛和小学校で行っている。
主な翻訳編著に「食育菜園 エディブル・スクールヤード(家の光協会刊)」、アリス・ウォータース著『アート・オブ・シンプルフード』(小学館)など。
エディブル・スクールヤード・ジャパン HP


※『EARTH JOURNAL』vol.2より転載

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2018.11.30 発売

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