エネルギー兼業農家 in USA 持続可能なワイナリー
2016/03/27
100%ソーラー発電とバイオダイナミック農法を実践するワイナリー、アンペロスは、脱サラ後の夫婦が第3の人生として経営している。小誌でハリウッドセレブ取材を担当する現地ライターから、アメリカの農的生活について。
無農薬とエコに目覚めた夫婦
映画スターのカート・ラッセルが出したワインについて本人に取材した際、コラボしているワイナリーが100%ソーラー発電を採用していると知り、興味を引かれたので、アプローチしてみると、ワイナリーのオーナーから取材大歓迎の連絡を受けたうえに、ゲストルームの宿泊までオファーされた。なんでもそのゲストルームには、カート・ラッセルも宿泊したことがあるとか……。
これは取材に行かない手はない。
ロサンゼルスから車で2時間半、サンタバーバラ(映画『サイドウェイ』の舞台となったワインの産地)の先のロンポックにそのワイナリー、アンペロス・ワイナリー&ヴィンヤードがある。経営者は、脱サラしたピーターとレベッカのワーク夫妻。
大手会計事務所で、人事関係のコンピュータシステムのコンサルタントをしていた2人は、仲間とともに独立して会社を興し大成功させた。その資金を元にワイナリー経営を決意。1999年に何もないこの土地を購入し、土地を見渡せる小高い丘に自宅を建て、コンサルタントを雇ってワイナリーに作り上げていった。
最初の数年は趣味に近い状態で、兼業のワイナリー農家だった。しかし2001年9月11日の朝、世界貿易センターでの会議がドタキャンとなり命拾いした夫妻は、ワイナリー経営に集中することにしたという。
「当初は、多くのアメリカ人同様、エコや無農薬には全く興味がなかったの。でも、ある日、自宅で窓を開けてくつろいでいた時、ブドウ畑からの風が入っているのに気づいた。当時、農薬を使っていたから、『農薬を吸って生活している』って気づいて恐ろしくなったわ。農薬は生き物を殺すものでしょ? それを吸っているとなると、身体に悪いに決まっているじゃない」——無農薬に切り替えたきっかけをレベッカは振り返る。
「無農薬への切り替えの時、エコについても考えるようになったんだ。ブドウの栽培には水が欠かせない。ポンプで水を吸い上げて、畑に通したパイプで水やりをしているけど、ポンプの電気代もバカにならないし、環境に影響を与えて作った電力を使うのにも抵抗を感じるようになった。何が一番いいかを考えた結果、『ソーラー発電』という答えが出たんだよ」——ピーターも付け加えた。
こうして2009年にソーラーパネルを設置。実はその年は経済的にとても苦しい年だったとピーターは打ち明ける。
「ブドウの収穫もイマイチなら、ワインの販売もまだ思うように伸びていなかったから、銀行に借金をしなければソーラーパネルを買うことができなかった。かなりのプレッシャーだったけど、『正しいことをするんだ』という強い気持ちがあったから絶対にあきらめたくなかった」。
こうして、ワイナリー用と自宅用に、それぞれソーラーシステムを購入、設置した。「ポンプの電気代として、毎月約600ドル(約7万1000円)の電気代を払っていたけど、それがなくなったどころか、余剰電力を電力会社が購入してくれる。設備投資を差し引くと、今年からプラスになっていくから、環境にも優しいだけでなく、お財布にも優しいワケだ。ソーラー発電にして本当に良かったよ」とピーターは笑顔を見せる。
バイオダイナミック農法に移行
有機栽培に切り替えた後、その方向性をさらに極めたくなった夫妻は、「バイオダイナミック農法」を取り入れることにする。
「高つくうえに面倒だから多くの農家は敬遠する。でも、お客さんの身体にも良いし、土にもいいからやってみることにしたの」とレベッカ。「海水だけでなく、私たち人間も月の満ち欠けに左右される。植物もそう。だから太陰暦に従って農作業をするのよ」と続ける。
翌朝、ピーターが馬とニワトリの餌やりをしながらブドウ畑を案内してくれた。馬の囲いの先の盛り土を指さして、「ブドウの皮や種、馬糞、雑草を溜め、約1年後にブドウ畑にまく堆肥だよ」と教えてくれた。
ブドウ畑の間に植わっている豆のような植物についても、「花が80%くらい咲いたら掘り返して埋めるんだ。土を元気にする微生物に必要な窒素の濃度を高めてくれるからね……」と、説明は続く。「ニワトリは、害虫退治と受精に大活躍なんだ。小屋から放すとブドウ畑にワーッと駆けていくよ」――。
畑の外れにあるソーラーパネルを確認した後、 自宅に戻ると、レベッカが「ウチのニワトリの卵で作ったオムレツよ」と言って、朝食を出してくれた。黄金色の卵オムレツに舌鼓を打ちながら、そこに満ちている穏やかな空気まで味わっている気分になった。