社会・環境

“社会と教育”を鋭い切り口で語る! 第1回『SDGs LIVE』イベントレポート

人生で「学ぶべきこと」は何か?

谷崎:では教育といったとき、私達は人生で何を学ぶべきなのでしょうか?

宮台:僕は知識よりもコミットメント、動機付けが重要になると思います。人類学・考古学的に言えば、僕達人類が森を出たのも、あるいはアフリカを出たのも、全て好奇心によるものだ、ということが分かってきた。森から誰かに追い出されたわけではない。環境要因でもない。彼らを動かしたのは好奇心だったと。

例えば、海の向こうに年に一日だけ島が見えた。そこに向かって男性と女性が船に乗って漕ぎだして行く。これが、僕達人類が持つ不思議な方向性なのです。動機に導かれるように進化してきた。

谷崎:ライアル・ワトソン(イギリスの動物行動学者)も言っていましたね。人間を進化させていたのは好奇心であると。

好奇心とは何かと言うと、やっちゃいけない、行っちゃいけない、と言われる領域を行くこと。木から降りた猿が直立二足歩行を始める。これも好奇心である。そういう特別なスペクトラムの心理状態を持っている者が進化の切っ掛けになっていた、これがネオフィリアです。それには役割があるのに、現在の学校教育には救い上げる機能がない、という問題提起ですね。

では学校教育にとらわれず、100歳まで学ぶと考えたとき、私達は何処に向かって、何のために、何を学べば良いのでしょうか?

宮台:人類学ブームが20年ほど続いていますが、その中心に多視座主義というのがあります。その本質は、森が見ている、空が見ている、ご先祖様が見ている。何かに見られている、という感覚です。アミニズムは、元々は魂とかとは関係がなくて、色々なものが自分を見ている、見られていると感じることで、一つの視座から離れることができる。例えば、不安。不安だと思う自分を見る別の視座がある。不安だと思う自分を否定する必要は、本当はない。こういう視座を持つことも、生きて行くうえで、一つ重要になります。

それから体験教育。元々これはジョン・デューイ(アメリカのプラグマティスト)が言ったことです。プラグマティストの本質とは、認識よりもコミットメント、ということ。これが何かと言うと、真理を理解しても身体が動くとは限らない。

一方で、心が動くと、誰かが「無謀だから止めろ」と言っても「あいつを助けに行くぞ」となる。これをプラグマティストは内なる光と言います。知識を与えることは手段でしかなくて、ゴールは内なる光を灯すことである、と。それを可能にするのが体験教育です。

僕の子供達だったら虫や爬虫類が好きなので、それらと森と出会う。それによって、そうした生き物に愛着を持つ。その住み家である森が大切だと感じる。だから森を守ろう、と繋がって行く。

小島:私は人生を通じて、曖昧さと不完全さを学ぶ、ということが大切だと思います。そういうものに対して耐性、受容する力を身に付ける、ということですね。

それにプラスして、不完全であることに慣れる。教師だって完全でなくて良いのです。自分が子供の頃を思い出してみても、「あの人良い先生だったな」という人は、今思うと案外、偏った方だった。そういう不完全な大人を見る、知る、というのは子供にとって学びが多いのです。

だから私は自分の障害のことや苦手なことを、包み隠さず自分の子供に伝えています。人間関係が上手く行かないことも全部話してしまっています。私が自分の矛盾や不完全さに苦しんでいることを、彼らは見て知っているのです。

もちろん学校教育も重要で、SDGsでいうところの4番目にある通りですよね。曖昧さを学ぶための技術を身に付けるために、学校教育は絶対的に必要です。文字を読む、計算する、そういったことは誰もが出来なくてはならない。

ただ一方で、学校にさえ行かせておけば何もかも手に入る、そういうものではない。学校とは、大きな学びの場のなかの一つであって、幾つもの学びの場があり、色んなタイミングで学ぶことができる。そのなかの一つであると理解すると良いのではないでしょうか?

谷崎:ご自身の子育て経験を通じて、どういう形で学びを与え、教えてきたのでしょうか?

宮台:昔のコンテンツを見せましたね。1950~60年代のアニメや映画は、勧善懲悪モノというのが極めて少ない。ゲゲゲの鬼太郎やジャングル大帝、今でも名作とされているものの多くが、勧善懲悪ではありません。これをオフビート・フィーリングと呼んでいるのですけど、ビートが裏のりなのです。悪にこそ真実がある、かも知れない(笑)。悪漢ヒーローでもなくて、犯罪者のコンテクストを辿ると、実は彼が一番ピュアであるために傷付いた、という話になったりする。

例えば、浦沢直樹さんのモンスターってご存知ですか? 鉄腕アトムの異本というか……そう読むことができる。鉄腕アトムでは、天馬博士が瀕死の子供を救い、そして正義の味方になる。それがモンスターでは、Drテンマが育てたヨハンは、モンスターという絶対悪に成長して行く。ヨハンは絶対悪で、そんなヨハンを育てたDrテンマは、とんでもない奴。出発点はそう。ところが最後は、ヨハンは誰よりも善良で、敏感で、思いやりがあったから自分の双子の妹を救うために犠牲になった。そして絶望して、感情が壊れたのだ……そういうストーリーです。

ウチの子供は4歳でモンスターを読みましたけど、それでも充分に理解できる。「人って見掛けで判断しちゃいけないよね」って言うのです。コレ、一つ重要なことを学んだと言えるでしょう。

小島:私と家族の体験をお話しますと、二人の子供が小学校3年生と6年生のときに、私達家族はオーストラリアに移住しました。これによって彼らの世界は完全に変わった。一番良かったなと思うのは、彼らが親は無力だと知ったことです

日本に住んでいたときは、都内の高級住宅地、まあ片隅の中古マンションでしたけれど、それでも高級住宅地に住んでいた。お母さんはテレビに出ていて、お父さんも皆が知っているテレビ番組のディレクター。だから子供達は勝手に自分を「イケてるんじゃない?」と思っていたはずです。

ところがオーストラリアに行くと、両親はネイティブほどに英語ができないし、知名度もゼロ。向こうでは収入もないから出稼ぎに行かなければならない。オーストラリアでは超マイノリティのアジア人、その中でも極めて少ない日本人……。マジョリティの真ん中から一気にマイノリティの片隅へと、180度違う世界に突然連れて行かれたわけです。

それによって彼らは親から自由になった。今では、彼らの方が私達両親よりも英語ができる。自分達が成長することで、親を自分の遥か後ろに置いて来てしまった……というのが今彼らに見えている風景だと思います。それを小学生の頃から体験した、というのが良かった。親が完全でないことを知り、親も自分も相対化することができたのです。

もう一点付け加えると、小説のように人生を生きることはできないが、小説を読むように人生を振り返ることはできる、ということですね。同じ小説でも、読み返してみると、全く違った解釈ができることがありますよね? 自分の人生を振り返る時も、ある時はトラウマの物語と読んだ方が楽になれるなら、そうすれば良い。でも別の時に読み返してトラウマが重荷に感じるなら、そんなトラウマなんて無かったと理解しても良い。自分の人生を、どう読むのかは自由なのです。

谷崎:ここまで、SDGsの奥にある、書かれていない、深い部分の教育と学びについて話してきました。

レイチェル・カーソンの著作「沈黙の春」をご存知の方も多いと思います。このままだと、虫も鳥も鳴かない春がやって来てしまうと、一生懸命に訴えた。ところが、それはあまり上手く行かなった。彼女にはもう一つ「センス・オブ・ワンダー」という著作があります。本当に社会を変えるのに必要なのは、自然に触れて、子供のように驚き、自然の美しさに気付く、そういう心なんだ、と。それをセンス・オブ・ワンダーと言う。知ることよりも、感じることの方が本当に大切なのだと。

環境問題を解決しようとするときに、どのパラメータをどのように低減して、という目標を設定して実行することだけでは不十分です。それでは一つのパラメータは改善されても、別のパラメータは捨て置かれてしまう。

そうではなくて、大きく見れば地球とか自然、身近にいる小さな草花や昆虫の動きの美しさに気付く。そういった感性を大切にする。そんな感性がモチベーションになれば、より大きなうねりを生み出せるのではないでしょうか。

イベント後の記念撮影

 


Text >> REGGY KAWASHIMA

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2020/03/08 | 編集部からのお知らせ

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