人と時間が交じり合う、旧き良き”最先端”の田舎
2014/05/16
よく言えば緑豊かな田舎、パッと見にはいわゆる過疎の進む町…。しかし、この町は全国から熱い視線が注がれている、実は”最先端の田舎”なのである。
クリエイティブな人材を誘致して
創造的に変える“創造的過疎”の実現
徳島駅からバスに揺られること60分、車がすれ違えないほどの民家の隙間を抜け、鮎喰川の美しい渓谷や川沿いに並ぶ田畑を横目に、目的の地、神山町にたどり着いた。
神山町は、「2011年度の人口動態調査で転入者が転出者を上回ったことが大きい」という地域活性の成功の地。全国で問題になっている過疎化や高齢化の問題を、山間部のまさにその典型ともいえる場所である神山町が見事にクリアしているのだ。解決策を求めて全国から自治体などの視察が絶えない、というのもうなずける。
答えの一つは「クリエイティブな人材を誘致して人口構造や人口構成を変化させ、地域を持続可能に、創造的に変える“創造的過疎”の実現」にある。例えば「ワーク・イン・レジデンス」というプログラムでは、空き家ごとに地元住民が希望する職種の人や企業を誘致、薪を通貨にコーヒーなどが飲める「カフェオニヴァ」や薪で焼かれたパンを提供する「マキパン」をはじめ、写真家・映像作家・SE・藍染師・建築家といった人材が集まった。若いIターンが増えれば平均年齢はぐっと下がり、若い男女が集まればそこには恋愛も生まれる。子供を持つ若夫婦の移住もある。「暮らしの中で自然にカップルが誕生している」というのも当然の話だ。
そしてもう一つの答えが、ITベンチャーや映像制作会社などが、サテライトオフィスの設置や本社移転を神山町に行ったことだ。2010年10月以降、徳島県全域を網羅する高速なITサービス網と神山町の地盤の強さを背景に、東京や大阪などから10社が神山町に拠点を構えた。
テレビ番組情報配信のプラットイーズは築90年の古民家にサテライトオフィスを設置するだけでなく、デジタルアーカイブの新会社「株式会社えんがわ」を設立。
ウェブ制作をはじめ新規事業のウェブサービス開発・提供を行うキネトスコープ社も重要拠点と位置付ける。法人向けクラウド名刺管理のSansanもそのひとつだ。“創造的過疎”の実現に突き進む神山町。シリコンバレーならぬ「神山バレー」として、文字通り注目すべき“最先端の田舎”となっているのだ。
「サテライトオフィス」の成功モデルとして注目される「えんがわオフィス」。恵比寿にあるメタデータセンターの西日本バックアップセンターとしてだけでなく、先進の運用・開発センターとして万全の体制で構築。
ウェブ媒体を中心に映像やグラフィックなどクロスメディアな表現を駆使したコンテンツ提供を行っているキネトスコープ社。薪を活用した間伐材のプロダクト化など、「神山サイズ」での地産地消の事業展開を模索中。
薪ストーブが大活躍するこの最新設備の古民家オフィスは、地域再生のシンボルにもなっている。薪=再生可能エネルギーの活用は、山の再生にもつながるのだ。薪ストーブで暖を取りながら談笑……こんなホッとできる環境から、新しいアイディアが生まれることも多いという。
取材・文/松浦良樹
※『SOLAR JOURNAL』vol.08より転載